十年近く前の事 実戦トレーニングに、と演出家が「ハムレット」の台本を持ってきた。
その立ち稽古の時の事、演出家からこう指示が飛んだ。
「舞台を二つの空間に分けて 舞台が自分で
その中で二種類の自分がひしめきあってんだよ、」
勘の良い人ならもうおわかりだろう そう、あの台詞 生きるべきか死ぬべきか・・・
指示を聞いた私の脳ミソは何を勘違いしたのか唐突に古いアニメの悪役の画像を出してきた。
思わず吹き出してしまった私は暫くツボにハマってしまい稽古を中断させてしまったのである。
私は演出家のお気に入りだったから叱られさえしなかったが、そのあとの稽古でしぼられた。
突然私の大腸を鷲掴みにしループ地獄へと陥れた画像の張本人
それはアシュラ男爵である。
半世紀近く前、ロボット物全盛期の先駆けである名作「マジンガーz」 その宿敵アシュラ男爵はとても奇妙な生態をしていて人間なのか怪物の類いなのかも区別がつかないぐらい中途半端に意味不明な姿であり、とにかくツッコミ所満載な悪人なのである。
後ろから見ると「フード付きのコートを着た普通の人」なのだが前から見ると、
これがなんと 顔の縦半分が男でもう片方が女なのである。具体的に言えば顔半分が目付きの悪いオッサンでもう半分は赤い口紅塗ったキツそうなオバサンなのである。
これはもう血気果敢な小学生にとって興味の尽きない生き物であって身体をコートで隠されている分余計に色んな事を想像してしまうのである。おっぱいは一個なのか?ブラジャーは?男の方が気を使って「恥ずかしいけど我慢するからパンツは男物にしてくれよ、女物は窮屈でしかたねぇ、」なんて取引が成立してるのか?では性器は?ここは突き詰めるとグロい事になってしまうのでさらりと流して、お風呂屋さんや公衆便所はどっち?そもそも顔に明確な男と女の境界線はあるのか?あったとしてその境界線上に生えてしまった髭はアウトなのかセーフなのか? とマジンガーzを見終わった小学生は悶々とするのであった。
なにより私をワクワクさせたのは、アシュラ男爵が喋るシーン どっちがどっちだったか忘れてしまったが男の顔の方を横アングルで撮ってる時は男の声、女の横顔の時は女の声、と映像に合わせて声も変わるのである。そしてなんと、正面から抜いた時は男と女、ユニゾンでたたみこんで来るもんだからそれはそれは迫力満点の演説になるのであった。
いや、マジンガーzの話をしたくてハムレットを出してきた訳ではない。なかったはずだ、
話を戻そう
ご存知のとおりハムレットは悲劇の人である。王様であるお父ちゃんを叔父きに毒殺されおまけに母ちゃんを寝取られてしまうのだからグレても仕方ない 仕方ないのだが、ちょっと陰湿過ぎやしないかい?お兄さん、と言いたくなるのである。
暫定次代王の座を下ろされただのぼんぼんとなってしまったハムレット。一見悲劇にみえるのではあるが、いまだ彼はお城で暮らしているではないか、王子ではなくなったとは言え直属の家臣がたした三人いたはずである。おまけにオフィーリアという彼女までいるではないか、これはもう小市民からすれば重責から解放されてこの先お気楽に暮らせるのだから「災い転じて吉となる」と思うのだがいかがだろう?いや王家の子として屈辱に耐えひっそり暮らすなんて有り得ない、仇を取るべきだ。と仰るならうだうだ言ってないでさっさと行動にうつせばよい。
「叔父さんにはかなわないや、まいったよ。これからは叔父さんのよき家来になれるよう精進するよ、」「おお、そうか なかなか物分かりのいい甥っ子だ、今までの事は水に流して一杯やろうじゃないか、」「ありがとう、叔父さん(グサッ!)」で完了ではないかい?
だいたい死ぬ気になりゃ何だってできるはずである。それを何だかんだとごたくを並べ立てたりとうちゃんの亡霊に尻をつつかれたり、あげくの果てにはショックで気がふれてしまったような猿芝居を打つのだから観ている方はしんどくてたまらんのである。それに比べアシュラ男爵のいさぎのよいこと、 マジンガーzにこてんぱんにやられても捨て台詞を吐きながらスタこらさっさとアジトへ逃げ帰るのである。そして無事我が家に帰りついたら着いたで大親分のお説教が待っているのである。そう 彼は中間管理職 辛い立場なのである。 にもかかわらず、というよりは全く動じることなく「次こそは マジンガーzの息の根を`」と男女混声二部で訴えかけるのである。まさにバイタリティー溢れる悪人なのである。
さて、あえて伺おう
ハムレットとアシュラ男爵 どっちがすきですか?
あれ?
何の話だっけ・・・?